重要判例解説|抵当権に基づく妨害排除請求権
抵当権者による妨害排除請求権を初めて認められたのが、平成17年3月10日最高裁判決です。
本記事では、平成17年3月10日最高裁判決の事案や要旨、ポイントについて解説します。
平成17年3月10日最高裁の事案
平成17年3月10日最高裁は、抵当権者Xが設定者である抵当不動産(土地・建物)の所有者A、その所有者から賃借権の設定を受けた賃借人B、及び転借人Yに対し、抵当不動産の明け渡しと損害金の支払いを求めた事案です。
平成17年3月10日最高裁判決の要旨
最高裁は、抵当権設定登記後に抵当不動産の所有者から占有権原の設定を受けてこれを占有する者についても、その占有権原の設定に抵当権の実行としての競売手続を妨害する目的が認められ、その占有により抵当不動産の交換価値の実現が妨げられて抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは、抵当権者は、当該占有者に対し、抵当権に基づく妨害排除請求を求めることができるとしました。
その理由について、最高裁は、次のように述べています。
抵当不動産の所有者は,抵当不動産を使用又は収益するに当たり、抵当不動産を適切に維持管理することが予定されており、抵当権の実行としての競売手続を妨害するような占有権原を設定することは許されないからである。
出典:裁判所「平成13(オ)656 建物明渡請求事件」
つまり、最高裁は、抵当権が不法に侵害される場合、抵当権者が抵当権に基づく妨害排除請求権を行使できることを認容しました。
そのうえで、最高裁は、抵当権に基づく妨害排除請求権の行使にあたり、抵当不動産の所有者で抵当権に対する侵害が生じないように抵当不動産を適切に維持管理することが期待できない場合は、抵当権者は、占有者に対し、直接自己への抵当不動産の明渡しを求めることができるとしました。
平成17年3月10日最高裁のポイント
本判決は、抵当権に基づく妨害排除請求権として、目的物の明渡請求を認めました。抵当権者は、占有者に対し、直接自己への抵当不動産の明渡しを求めることができるとして、本来占有権原のない抵当権者に占有を認めた点が大きなポイントだといえます。
抵当権は目的物の占有を債権者に移転せずに担保にできる非占有担保物権です。これにより、本判決まで、「抵当権は目的物の担保価値(交換価値)のみを把握する価値権である」と理解されていたことから、抵当権の設定者は依然として使用収益権能を有し、抵当不動産を自由に第三者に売却したり、賃貸したりすることが可能とされてきました。
同時に、抵当権に基づく妨害排除請求権は抵当不動産の占有者が目的物を損傷するおそれのある場合のみに認められており、占有それ自体に関しては認められてきませんでした。
しかし、本判決では、抵当権に基づく妨害排除請求が認められました。つまり、今まで認められてこなかった抵当権者による物上請求(妨害排除請求)が正面から認められたといえます。
まとめ
繰り返しますが、本判決は、抵当権者は、占有者に対し、直接自己への抵当不動産の明渡しを求めることができるとして、本来占有権原のない抵当権者に占有を認めた点で意義の大きい判例だといえます。
抵当不動産の所有者、設定者による抵当不動産の不当な利用に悩まれている方は、本判決を参考にされると良いでしょう。
